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Selfishly

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愛に執心する運命ならば


 ~ Chi in amore ha nemica la sorte  ~
    《 愛に執心する運命ならば 》

*久遠の輪舞・番外編







 エドワードとアルフォンスが、故国の地を踏んだのは、
 ロイとの一足早い再会から半月程経った頃となった。
 その大半は他国での旅程で費やされ、ロイの力の及ばぬ範囲では時間を喰われるのは
 仕方がないことでもあった。それでも出来る限り最短で、アメストリス国内に入れるようにと、
 万全の根回しを欠かさなかったおかげだ。
 アメストリスの国内に入れば、首都セントラルまで最短の列車が用意され、親善使節を迎え待っていた。
 安全に速やかに走り出した列車からは、見慣れた景色や家屋が立ち並び、2人は戻ってきた実感を噛み締めていた。





「お~い、大将。ラブコールだぜぇ」
 自国に戻ってきて一息付けたのか、最近のハボックは、昔に良く知っていた頃のひょうきんさを取り戻してきている。
「なっ! 
 れ、連絡・・・定時連絡だろ!」
 真っ赤な顔で抗議を唱えるエドワードに、へいへいとタバコをふかしながら、にやにやと笑っている。
「兄さん…、どっちでも同じでしょ。
 待たせるのも悪いから、さっさと行きなよ」
「どっ、どっちも同じって、何だよ、それ!」
「はいはい、判ったから、さっさと行く」
 不満そうなエドワードを押すようにして、車室から追い出すと、残った2人で苦笑を交し合う。
「いやぁ~、マメだね、うちの上司も」
「本当に。お忙しいでしょうに、よく時間を捻出されてますよね」
「ああ、目を盗むのは昔っから得意だったからなぁ」
「はぁ…、そうなんですか…」
 コメントの仕様の無いハボックの言葉には、曖昧な相槌を打つしか出来ない。
「まぁ、ホークアイ大佐あたりが、調整してくれてるんだろうけどな」
 でなければ、幾らロイが頑張ったとしても、そうそう決まった時間に予定が空くはずも無いだろう。
 アルフォンスは、2人を取り巻く周囲の温かさを感じて嬉しく思う。
 兄達の関係が、決して認められるものでも、褒められるものでもないのに、彼らはきちんと受け止め、
 応援してくれている。
 今はまだ会えてはいないが、他のメンバーの人達にも会えたら、真っ先にお礼を伝えようと思う。


 通信室の機械の前で、緊張を解すように深呼吸する。
 もう何度も、こうして話していると言うのに、話す前になると、胸の鼓動が激しくなるのは、
 どうしてなんだろう…。
 よしっと気合を入れてから、通信機を持ち上げる。
「もしもし、洸麒ですが…」
 故国では名乗りを上げれなくなった名前の代わりに、リンがシンで付けてくれた名前を名乗る。
『やぁ。旅路は順調かな?』
「ええ、皆さんのおかげで快適に進んでいます」
『そうか、それは良かった。
 で、セントラルに着くのは予定通りで大丈夫なのかい』
「あっ、はい。特に大きな問題も無いようですし」
 そう返すと、向うから暫しの沈黙が返ってくる。
「あのぉ?」
 怪訝に思って聞き返してみると。
『事件か……。君、大丈夫だろうね?』
 不安そうに聞かれた言葉に、過去の思い当たる事件が頭の隅を過ぎっていく。
 何かとトラブル体質のエドワードは、列車に乗り込む度に、色々な事件に遭遇した事が有るからだ。
 が、自分が望んで起こしたわけでもなし、そんな事にまで責任は持てるはずも無い。
「まぁ、多分、大丈夫なんじゃないですか」
 少々、ムッとした口調で返してやる。
『なら良いんだが…』
 どこか不審に思っている感じを与える返答が癪に障る。
 けど、そんな思いも、ロイが毎回告げる言葉を聞けば、霧散する程度の些細なことだ。
『早く逢いたいな…』
 囁くように吐息混じりに伝えられる言葉は、いつもロイの心情を嫌と言うほど顕していて、
 エドワードの心を揺さぶるのだ。
「うん…俺も…。
 あっいえ、私もお会いしたいです」
 一般の回線を使っての会話は、どこで傍受されているかわかったものではない。
 だから、どうしても畏まった口調で話すしかないのだ。
『ああ…、楽しみにしている』
 ロイもそれが判っているから、当たり障り無い言葉を選んで、それでも精一杯エドワードに
 思いを伝えようと頑張ってくれるのだ。
 もどかしい思いを抱えながら、2人の距離は着実と近付いて行った…。




 ***

 が、そうやってロイが辛抱できたのも、エドワード達がセントラルに着くまでの間だった。

「また、連絡が付かないだと!」
 苛立だしげに部屋を歩き回りながら、メンバーの報告を受け取っている。
 最近ではこの報告をしたくないが為に、仲間内では阿弥陀で籤で担当を押し付けあっている程だった。
「はっ、はい! 本日は昨日に引き続き、機械工場の見学に、次の街へと移動されたらしくて、
 こ、こ、こちらには戻って来られないそうだ…とか…」
 語尾は掠れて小さくなるのを止められない。
 その報告を聞いた後のロイに態度は、全くもって褒められない行動だった。
 彼は力任せに机を蹴り上げて、積まれていた書類に雪崩を起こさせたのだった。
「ヒッ…」
 フュリーはその場で頭を抱えて蹲ってしまう。

 その時、バタンと音を立てて開かれた扉からは、呆れ返った表情のホークアイが、
 悲惨な惨状になっている部屋の有様に、深い、深いため息を吐いていた。
「総統…。むやみやたらと国の備品を傷つけないで下さい。
 それと、ご自分で崩した書類の片付は、自分でお願い致します」
「…判っている!」
 どれだけ頭に血が上っていても、長年植えつけられた恐怖は覆せないのか、
 ホークアイの正論に逆らうような事はない。
 
 エドワード達がいる親善使節の日程は、タイトに組まれていて、着いたその日だけセントラルに宿泊すると、
 翌日には印刷機に車工場、病院や学校などの施設を巡るのに費やされている。
 初日も結局、親善の挨拶を交わした後は、皆を引き連れて、宛がわれた宿舎に行ってしまい、
 期待して待っていたロイはと言うと、まんじりしながら待ちぼうけを食わされたのだった。
 戻ってくれば、ずっと一緒に…と期待が大きかったせいで、ここ最近のロイの鬱屈は溜まる一方だった。


 隣の部屋では、この国で1番の権力者が不満顔で、自分の散らかした書類を集めているという
 …とても情けなく、人様には見せれない光景があって、見聞の悪さを考えてホークアイは扉を
 きっちりと閉めて出てきた。
 はぁーと溜息を吐くと、米神を押さえている。
「総統、親善使節のスケジュール、見てましたよね?」
「ええ、勿論。
 でも、どうもそれにエドワード君が着いていくと言う事を失念していたようなの」
「失念って。国の文化発展を見に遥々やってきたんだから、スケジュールが詰まってるのは当たり前でしょうに」
「戻ってくるまで大人しく待っていた反動かしら、自分の感情を抑え切れないんでしょうね」
「まぁ、それだけを喜びに待っていたんですから、気持ちは判りますよ」
「そうね…。
 まぁ、後数日の事だから、我慢して貰うしかないわね。
 総統にも、皆にも」
「はぁ…」
 嫌そうな皆の返事に、ホークアイが困ったような表情を浮かべ、部屋を足早に出て行く。
 
 親善の目的が果せたら、残留希望の者以外は祖国へと帰る。
 エドワードとアルフォンスは、勿論残留希望になっている。が、他の者はやはり一旦帰国してから出ないと、
 なかなか決心が付けれないのも当然だろう。
 一度戻り、今度は正式な留学生としてやってくるメンバーを募るようだった。
 両国とも、引き受けには積極的な姿勢を見せて歓迎しているから、頻繁に通い合う人々も出ることだろう。
 エドワードとアルフォンスには当面、その人々との窓口となって貰わないといけないのだ。
 
 暫くの間部屋を留守にしていたホークアイが、すっきりとした表情で戻ってくると、
 その足で総統の執務室に入っていく。
 その後直ぐに扉を開けて出てきた背後では、ロイが電話で話をしているのが見て取れた。
「一体、何したんすか?」
 不思議そうなメンバーの表情に、小さく笑ってくる。
「ちょっとだけ、ご褒美を先渡しよ」
 それだけ告げて、彼女は自分のデスクに戻って仕事を再開した。
 
 そして、その後暫くの間、落ち着きを取り戻した上司が、職務に精を出す日々が戻ってきたのだった。




 ***


「では御二人には、ご健勝で在られますように」
「ああ、皆も道中気をつけてな。
 渡来の時には、また俺らが迎えに来るからな」
「はい、宜しくお願い致します」
 深々と頭を下げる人々の異質な空気に、駅のホームに居合わせた人々が、
 興味津々で視線を送ってきている。
「それと…リン、皇帝にはくれぐれも宜しくな。
 元気で、頑張れよって」
「判りました、必ずお伝えいたしますが…。
 また、お戻りになられるのですよね?」
 残留する事は知っているが、永住するとは思ってもいないのだろう。不思議そうな表情で問いかけてくる。
「ああ…、そうだな。いつか…」
(また、逢える時が巡ってくる事も有るだろう…)
 親善の成果を持ち帰る人々の表情は、達成感に故国に戻れる安堵感が浮かんでいる。
 エドワードとアルフォンスは、去っていく列車を見送りながら、
 1つの自分達の役目が終わった事を感じていたのだった。

 とその時。
 ぐいっと力任せに腕を引かれて、思わずよろめいた先には、見知った男が立ちはだかって、
 エドワードの身体を支えるようにして抱きとめる。
「あ、あんた…」
 絶句しているエドワードの困惑を余所に、引いた腕をそのままで、足早に歩き出す。
「ちょっ、ちょっと待てよ。アルフォンスが…」
「もう待てない。ここまででも、十分待っていたんだぞ」
 強引に引き摺るようにして歩いた先に、手の平をヒラヒラと閃かしたハボックが声をかけてくる。
「弟の事は任せておけ。お前は、そちらの御仁を頼むな。
 精々、機嫌を取ってやってくれ」
 そう告げるハボックを通り過ぎて、ロイはエドワードを連れて歩いていく。
 
 駅の改札口を出ると、用意されていたらしい車の助手席にエドワードを座らせると、
 ロイは回り込んで運転席に乗ってくる。
「えっ? あんたが運転するのか?」
 そんなエドワードの驚きの声に、当然だと言うように頷いて、キーを入れる。
「総統が運転するって、あんま聞かないよな」
 呆れたようなエドワードの声に、漸くロイがまともに口を利いてきた。
「ああ、その方が早く2人きりになれるだろ?」
 嬉しそうに告げられた素直な言葉が、エドワードを真っ赤にさせる。

 ーーー こんな奴だったっけ? ーーー

 エドワードは直ぐ傍に居る相手を、不思議な気持ちでじっと見つめる。
 最近のロイは、エドワードが驚くほど子供だ。
 ホークアイからの連絡で、駄々を捏ねて仕方がないから電話で宥めてやってくれないかと頼まれた時も
 ビックリさせられたが、電話口で会いたいと強請っては引かなかったり、
 今もエドワードを攫うようにして連れ出してしまった。

 ーーー 意外すぎて ーーー

 以前のエドワードの知っていた頃のロイは、もっと大人だったような気がする。
 忍耐も、我慢も、それを周囲に悟らせずにやり過ごしていたのに。
 でも…、別にそれはそれで嫌な気はしない。
 逆にそうして甘えて貰える事が嬉しかった。
 少しだけ、自分が彼に近づけたようで…。

 そんな事を思い浮かべていたら、自分で思うよりずっと、ロイを見つめる視線に力が入っていたのだろう。
「そんなに見つめられると、磨り減った忍耐がもたないな…」
 そう言いながら、苦笑をしてエドワードを振り向く。
 そして、悩ましげな表情を浮かべて、エドワードの方へと乗り出してくる。
 …そう、気づけば車は停車されており、周囲は人気の無い路地裏だった。

「ロ、ロイ?」
 相手の意図を察して、エドワードが思わず後じさる。
「逢いたかった。我ながら良く辛抱できたと褒めてやりたいよ。
 君は…酷い恋人だな。
 漸く逢えた恋人よりも他人の世話かい?
 …今からは、私の事だけ考えなさい」
 そう詰り、命令口調で告げながらも、声音は切実な哀願が滲んでいる。
 エドワードはそのロイの思いを受け止めながら、瞼を閉じ、もう直ぐにでも感じられるだろう熱を思う。
 頬に温かな手の平が触れてくる。
 そして、躊躇うように撫でる手が震えているのに気づいた。
 自分だけじゃない…。
 ロイだって、こんなにも自分を求めていてくれたんだと思うと、苦しいほど喜びで胸が痛くなる。
 小さく触れて離れる温もりを惜しむように瞳を開けると、泣きそうな表情が見える。
 でも、それと同様の表情を、自分も浮かべている事を、エドワードはロイの瞳の中に映る自分で、気が付いた。
「漸く取り戻した…」
 万感の想いと共に吐き出された吐息が、エドワードの唇に吹込まれてくる。
 ゆっくりと、そしてしっかりと強く重なる唇が、何度も告げようと開かれては、言葉ごと吸い込まれていく。
 ーーー ロイのキスだ… ーーー
 長いこと渇望していた相手の温もりに酔わされながら、絡むことを強請る舌の動きに応えていく。
 吐息を交わし合わせ、互いの熱を分け合って。
 吸い上げては、優しく甘噛みをする。
 時には強引に、息をも奪うように迫ってきて。
 己に取り込もうととでもするかのように、引き込んでいく。
 時間は理性を脆くし、上がる吐息は次を強請るように鼻から抜けて行く。
 目も眩むような感覚の奔流に巻き込まれ、流されそうになっていると、ロイが荒い息を吐き出しながら、
 忌々しそうに舌打ちをする。
「もう、駄目だ…、我慢できない」
 とそんなセリフを吐き出しながら、エドワードをシートに縫い付けるようにして、倒し込んでくる。
 そうして、エドワードの着衣に手をかけられる段階になって、さすがにエドワードの熱も急激に冷めてくる。
「ちょ、ちょっと待てよ。ま、まさかあんたここで何かしようとか、思ってるんじゃないだろうな!」
 必死に身体を起こそうと試みるエドワードを、押さえ込んでは肌を弄ってくる相手は、
 聞こえない振りで通すつもりらしい。
「じょ、冗談だろ! こんな処で…。
 待て、待てったらー」
 顔を蒼ざめさせて、必死に訴えかけるエドワードは、ロイが言った一言でプチンと切れる。
 曰く、「大丈夫だ、手早く済ませるから」と。

「なーにが、大丈夫だ!
 全然、大丈夫じゃないだろうが!!
 ちっとは頭を冷やせー!」
 叫びと共に繰り出された膝蹴りは、見事ロイのモノにヒットした。
「くっー」
 狭い車内で蹲る相手を気遣う事無く、エドワードはさっさと身支度を整えると、シートも起こしてしまう。
 涙目で訴えるような視線を向けてくるロイに、顎でハンドルを促すと、
「さっさと車を出せ」と横柄極まりない態度で、ロイをせっつく。
「君は酷すぎる…」
 受けた衝撃の余韻から抜け出せずに、ロイは顔を顰めたまま、渋々と車を発進させる。
 不満たらたらの表情で、泣き出しそうな相手に、少しだけ…まぁ、本当に少しだけだが、
 悪い事をしたかな?と心の中だけで思う。
 そして、う~んと頭を捻り1つの考えを搾り出すと、羞恥を振るい落として、今だ不機嫌そうな相手に話しかける。
「ロイ…、あのな。
 俺、戻ってきてからの最初は、ゆっくりとあんたを感じていたいんだよ。
 だ、だから、手早くとかとかは、そのぉ…やなんで…
 早く帰えろ?」
 顔を紅くして、つっかえつっかえ告げるエドワードの告白に、ロイは最初茫然と聞いていて、
 次には猛然とアクセルを踏んで走り出した。

 ーーー 言わなきゃ良かった… ーーー
 必死にシートベルトにしがみ付きながら、エドワードは真剣に祈る。命がありますようにと。

 その後、ぐったりとしたエドワードを抱きかかえて、家に飛び込むように入ると、
 扉を開けるのももどかしげに、蹴り開ける様にして寝室に直行する。
 もう抵抗する気力も萎えたエドワードは、素直に腕を回す。どちらにしろ、ここまで来てしまえば、
 止められるはずも無い。…そして、止めようとも思わない。
 ロイと同じで、エドワードだって、早く相手を感じたいと願っているのだ。
 そんな想いが伝わったのか、顔中に口付けを落としていたロイが、ふと動きを止めて、
 エドワードの瞳を覗き込んでくる。
 そして、2人して幸せを共有する喜びに、頬を綻ばす。
「お帰り、よく戻ってきてくれた…」
 短い言葉なのに、胸に染み渡るように響いてくる。
「うん。俺が還る処で待っててくれて、ありがとうな」
 長い月日の別離も、今こうして2人で寄り添うための過程だった。
 そう、エドワードもロイも、愛しい人が再び腕に戻った今は判るのだ。
 それでも、離れていた時の寂しさは消えない。
 だから今は、目一杯に相手を感じていたい。
 瞳を開けても相手が消えない喜びを、2人で感じるのだ。
 
 服を脱がす手間さえ惜しくて、互いの衣服に手をかけて乱暴に引き剥がすように脱がせていく。
 そしてロイは、ふと気づいたように言葉にする。
「エドワード、髪を、色を戻してくれ…、君の色に」
 そう告げられ、エドワードは術を解いてなかった事に思い至る。
 パァンと手を打ち鳴らすと、明るい閃光が部屋を包み、その光が治まった後には、
 ロイが焦がれ続けた光が生まれていた。
「ああ…、君の色だな…」
 ロイは金の色を取り戻した髪を一房持ち上げると、愛しそうに口付けを落とし、頬を摺り寄せてくる。
 憧れに羨望。
 憧憬にも似た愛しく思う気持ち。
 愛しくて、愛しくて、余りに愛しすぎて切ない…。
 人を恋い慕うことが、これほど辛くて切ないものだと、ロイはエドワードに出会って初めて知った。
 どれだけ愛しくても、欲しても、溶け合うことは叶わず、必ず二人に戻っていく。
 でも、それでも良いのだと…。
 二人だからこそ、互いが惹き合う強さで、より一層離れ難い結びつきが可能になるのだから。
 それでも1つに戻りたいと願う魂の強さが、相手を欲する気持ちになるのだ。
 だからずっと、別々の人間でいよう。
 そして、離れている寂しさを埋める為に、強く、激しく愛し貫こう。

 激しい揺さぶりに互いに荒い息を吐き出す。
 夥しい汗が互いの身体を涙のように濡らしていく。
 離さないと絡みつく中に、離れるものかと押し込んで行く。
 口からは、無意識に相手を呼ぶ名だけが洩れている。
 馬鹿みたいにがむしゃらに。
 愚かな獣のように、互いの肉の熱さに溺れていく。
 挑んでは果て、果ててはまた挑む。
 そうやってでしか、今そこに居る相手を感じられない、人とは可哀想で愛しい生き物だ。

 もう放つものもないと言うのに、それでも執着は恐ろしく自分達を突き動かしていく。
 ドロドロに汚れた身体を、必死の思いで連れ出し、シャワーを浴びて清潔なベットに
 一緒に転がり込むようにして入ると、精も根も尽き果ててひたすら相手を抱きしめたまま眠りに就くだけだ。

 

 ふと息苦しさに、意識が浮上する。
 まだ寝足りないと訴える身体を叱咤し、息苦しさの元凶を辿る。
 そして、原因を知って安堵の吐息を吐き出す。
 自分に回された腕は、がっちりと身体に回されていて少しも外れる様子も無い。
 それがエドワードを途轍もなく喜ばせる。
 少しだけ身じろぐと、居心地の良いポジションンに潜り込んで、ほっと息を吐く。
 トクトクと脈打つ鼓動に引き込まれるようにして、うとうととまどろみが戻ってくる。
 もう眠る度に哀しい思いをする事はないのだ。
 何度目覚めても、彼はちゃんと傍に居てくれる。
 満たされた気持ちのままで、エドワードは安らかな眠りへと返って行く。
 
 ロイは逆に温もりを感じて瞼を開くと、腕の中に留まる温もりに、押さえ切れない喜びを実感する。
 虚しい幻なんかではない、温かみを持つ身体。
 それを感じると、確認したくて疼く手を抑えることも出来ないまま、エドワードの身体を辿っていく。
 滑らかな曲線をかく背中や、薄い肩幅。
 思わず目を惹き付けられる白い項や、金の髪。
 可愛い小粒の果実に彩られる胸。
 淡い茂みに隠された彼のモノ。
 すらりと伸びた腕や足。
 どれのどこに触れても、愛しさは増すばかりの愛しい人の肢体だ。
 だが、彼が愛しいのは、そんな美しいパーツを具えているからだけではない。
 ロイを惹きつけて止まないのは、その中に燦然と輝いている強い魂だ。
 真っ直ぐで、気高く、誰にも何にも屈しない魂。
 鋼のように強かで、羽根のように柔らかで自由な彼の魂。
 ロイがずっと、ずっと求め続けていたもの。
 それをエドワードが持ち続けてる。
 だから、溶け合い交じり合って1つに戻るまで、ずっと、ロイは彼を求めて、追い続けるだろう。
  

 いつか…そう、いつか。
 互いの命が燃え尽き、身体が朽ち果て。
 そうしてやっと、二人一緒に同じ処へと還る時まで。
 ずっと、彼を恋い慕い続けるのだろう…自分は。



 ***
 
 が日常の別れなど、無情にも頻繁に訪れるものだ。
 二人揃ってまどろみに浸っていると、仰天して飛び起きそうな程の呼び鈴の音が鳴り響く。
 そして。
「総統~! 時間です、時間!!
 ホークアイ大佐に、撃たれますよぉ~」
 ととんでもないセリフを大声で叫んでいる。
 
 迎えが来たと寝ぼけた頭で理解するのに数瞬…。
 理解できた時、猛然と拒否したい気持ちが湧き起こり、
寝起きを叩き起こされ、目をパチクリとさせているエドワードの胸に倒れ込む。
「迎えが来たらしい…」
「うん、そうみたいだな」
 ポンポンと宥めるように肩を叩いてくるエドワードにしがみ付いて、愚痴る。
「今日くらい休みをくれたって良いと思わないか…?」
「う~ん、どうだろ?
 だって昨日も早引けしてきたか、休み貰ったかだろ?
 なら。今日はちゃんと働かないと」
 グッと言葉を詰まらせるような反論に、ロイは深い嘆息を吐く。
「じゃあ君は、久しぶりに再会した恋人を置いて、私に出て行けと?」
 そんな子供じみた事を拗ねた声で訴えてくる。
 エドワードは笑いを噛み殺しながら、言ってやる。
「あんた一人じゃないだろ? 俺も後から顔を出すよ。
 だってこれからは、離れる必要なんてないんだから…さ」
 そう告げ、照れたように鼻の頭を掻いてみせる。
 その言葉に、ロイは数度瞳を瞬かせると。
「そうか…そうだな。
 もう離れる事はないんだったな」
 と嬉しそうに、喜びを噛み締めるように呟いた。

 二人してほくそ笑みながら、額を寄せて囁きあう。

「また後で逢おう」
 
 そうして今度は小さな約束を沢山交わして、叶えあっていこう。
 大切な誓いは、もう叶えて貰っているから。
 これからは、喜びを増やす為の約束を沢山口にするのだ。
 

 何度離れる事になったとしても、大丈夫だ。
 二人が進む先には、必ず二人を繋ぐ道が待っているのだから…。



                  END






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